書籍・雑誌

三浦綾子著『石ころのうた』

著者 : 三浦綾子
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2012-04-25
 作家三浦綾子さんが,まだ,堀田綾子だった頃のことを綴った自伝です。
 描かれている時代は,幼少から,年若くして教員となり戦前・戦中を皇国史観の中で教育し,敗戦を迎えた頃までです。
 綾子は,全身全霊をかたむけて教育にあたり,子どもとともに成長していたからこそ,敗戦で受けた衝撃は大きなものでした。この生き方で間違いないと思っていたことが,脆くも崩れ去るとき,彼女は,教壇から去って行きます。たった7年の教師生活でした。

 昨日まで教えていた教科書に墨をぬらせたということは,わたしをして,単に国家や政治への不信ばかりではなく,すべての人間への不信に追いやっていたのである。p.339

 人間としても,どう生きていけば良いのか分からない状態になった綾子は,重い病気まで引き起こしてしまいます。

 自分の過去を客観的にふり返る姿は,時に大変赤裸々です。さすが作家さんだと感心します。
 遊女の意味も分からず,男女の関係も分からず,ただ純粋培養された娘が,どのように社会と交わって成長していくのか。現代では考えられない,10代前半から20代前半の少女の考え方が見えて,興味深いです。

 なお,三浦さんには,この続編となる自伝『道ありき』『この土の器をも』というのもあるそうです。

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前野ウルド浩太郎著『孤独なバッタが群れるとき』

 今,『バッタを倒しにアフリカへ』という新書がけっこう売れているらしいです。売れている理由は,昆虫学者の研究物語なのに,まるで,冒険物語のように読めるからでしょう。
 その新書版では,文字通りアフリカへサバクトビバッタの研究に行ったときのことが書かれているわけですが,本書は,前野ウルド浩太郎氏が,昆虫学者として独り立ちしようともがいている期間のことが書かれています。もちろん,新書版とは違う専門的な研究の部分も,わりと詳しく書かれています。
 かといって,そんなに難しい内容ではありませんし,著者の軽快な文章の片鱗(新書版ではこれがおもしろかった)もすでに感じられて,こういうタイプの本にしては,読みやすくなっていると思います。
  同じバッタが,何をキッカケとして孤独相と群生相に分かれるのか,それを突き止める旅は,まだまだ続きそうです。

 帯には「必読! 今話題の『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)の著者の処女作」とありました。


 それにしても,研究の楽しさが伝わってくる本でした。
 

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内田良著『ブラック部活動』

 石川県教育研究集会の記念講演が,内田良さんでした。とても具体的で,分かりやすい話でした。学校現場のブラック度が待ったなしの状況であることが分かりました。

 中学校や高校の部活動が,子どもたちの発達の場になっていることはみんな知っています。どの部活でどれくらい頑張ってきたのかが,自分の人生を語る上で相当の比重をもっている人もたくさんいることでしょう。教師側にとっても「おれは,この部活で頑張って生徒たちを成長させた」と密かに自信を持っている人も多いことでしょう。

 しかし…です。その現状は,おかしいのです。おかしいことはおかしいと言わないと,本当に大切にしなければならないことができなくなります。

 私も中学校勤務の頃は,土日も部活に行っていました。練習試合もしました。私が担当した部活動(スポーツ)についても,全くのシロウトでした(体育でやった程度)。たまたまその部活の顧問が異動したから担当させられただけです。だから,いつも「子どもたちには申し訳ない」と思っていました。
 そして,それは,本書にあるように,自分の子どもをほおっておいての活動でした。そんな我が子も,自分の生活よりも部活を優先してくれる先生たちの元で,部活に頑張って大人になりました。
 これって,正常じゃないんです…ね。
 おかしいじゃないか…って言っていいんですね。

 せっかく合格した先生たちが,去って行く学校現場って,やっぱりおかしい。
 できるところからやっていこう。
 この本は,そう呼びかけています。
 一番変わらないのが現場です。それほど,現場は保守的です。

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河合隼雄著『縦糸横糸』

 『教育相談』で,引用されていた本を読んでみました。なかなかよかったです。

著者 : 河合隼雄
新潮社
発売日 : 2003-07
 本書の文章は,96年5月~2003年5月までの間に書かれたものです。
 96年頃というと,高校生による「オヤジ狩り」があったり,神戸で中学生の小学生殺人事件があったりと,子どもを巡るさまざまな事件が起きました。当然,著者も,その事件と事件を巡るマスコミや世間の対応などについての思いを綴っています。
 この間,著者は文化庁長官にも任命されており,そのあたりについても話が振れられています。
 一向におさまらない「いじめ事件」に触れて…

これ(いじめは下火になるどころか,ますます深刻さを加えていること)は,いじめ問題の根の深さを如実に示している。それと共に,これまで「いじめの根絶」をかかげて,日本中で努力してきたやり方に,どこか反省すべき点がなかったか,考えてみる必要があることを示唆している。p.32

と述べています。
 しかし,未だに,教育界では,毎月「いじめ調査」をして,子どもたちを見張り,道徳教育を強化することで「いじめ」がなくなると思っているようです。

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前野ウルド浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』

 『たのしい授業・2017年10月号』で読者が紹介していた本です。とてもおもしろい内容でした。著者の話も聞きたい。絶対おもしろいに違いない。
 小さい頃から夢見ていた昆虫博士になるべく勉強をし,その夢を果たしていく著者。しかし,その道は,決して楽なものではないのです。
 このように書くと,なんか,教訓めいた成功物語のお話のように思ってしまいますが,本書の内容は,決してそうではありません。

 サバクトビバッタに魅せられた著者は,わずかばかりの貯金を頼りにアフリカのモーリタニアへ研究に出かけます。しかし,そこで待ち受けていたのは,さまざまな困難でした。しかし,バッタ好きの著者は,そんな困難を自嘲的に笑い飛ばしながら,砂漠での研究を進めていくのです。
 バッタに恵まれない毎日が綴られるかと思えば,雇い人に払う給料を高く取られてしまったり…。地元の子どもたちにバッタを集めてもらおうと,バッタと引き替えにわずかばかりの小遣いをやるという方法を取ったところ,予期せぬことが勃発して…。
 決してスムーズに進まない研究の様子がおもしろくて,次はどうなるのだろうか,本当に研究ができたのだろうかと,ぐいぐいと読み進めてしまいました。
 文章表現も面白くて,まるで椎名誠のリズム? 現代の寺田寅彦になれるかも…。
 バッタに全く興味のない方にも,面白く読める,研究ドタバタ物語です。超お薦め。
 というか,サバクトビバッタの研究結果なんかは,ほとんど出てきません(^^;;

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久米宏著『久米宏です。』

 「ぴったしカンカン」のチョメチョメという言葉は,今でも普通に口にしてしまいます。それほど,久米さんのあのテレビ番組が血肉となっているんだと思います。
 本書は,久米さんの自叙伝と言えるでしょう。ラジオから始まって,テレビに出るようになり,「ザ・ベストテン」を経て「ニュースステーション」で国民的な「人」となり,今は,また,ラジオに帰っている…そんな久米さんの心の内が,赤裸々に語られています。
 同時代を生きてきた者として,彼の進路選択への葛藤がビンビン伝わってきて,なんか,やっぱり久米さんが好きです。
 あの時代を生きてきた人にとって,本書は,自分をふり返ることができる内容だと思います。
 「ニュースステーション」での最後の番組を見ていないのですが,自分で乾杯するなんてとても粋。そう,彼は,いつも粋な生き方をしているんですよね。
 久米さん,かっこいいよなあ。

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竜門冬二著『小説 前島密』

 前島密に関する3冊目の本です。

 一読した感想は,「これは小説とは言えない。伝記だ」ということです。
 小説というからには,なにか,著者の気持ちが着色されていたり,たとえば主人公の家族のにおいがしたりするものですが,そういうのは,ほとんど感じられません。あくまでも密の自伝に忠実に描かれていて,それはそれで,いいんじゃないかな。『知られざる前島密』よりも詳しく描かれているものもあったので,読んで損はしませんでした。
 「郵研社」という出版社名は初めて聞きました。書籍にはさまれていた「出版案内」を見ると,『日本の郵政』『郵便局POPの達人』『郵政事業の新展開』『これさえあれば大丈夫!郵便局英会話110』など,郵便事業に関する書籍をたくさん扱っているようです。そう,この出版社は,郵便局に勤務する方々への本を出版している会社なんです。
 このように郵政専門の出版でやっていけるだけの需要が現場にはあるというわけでしょう。確かに,郵便局は,それこそ,田舎の津々浦々までちゃんと存在しているのですから,考えてみるとすごい制度です。
 密は,郵便制度を全国展開するときに,地方のある程度お金と地位のある家に,郵便の事業を任せる「郵便取扱所(のちに郵便役所→郵便局)」を設けました。その名残が,地方に点在している今の郵便局なのですね。
 当時の事情について,著者が次のように述べています。

地方に設けられた郵便取扱所の責任者,すなわち後の郵便局長はかなり協力的だった。かれらは,「政府の誠意と公衆の便益のために,奮ってその任に当たります」といってくれた。これは,藩政時代でも,大名から,「名字帯刀を許され,何人扶持の給与を与える」といわれれば大変名誉なことだったことに通ずる。今度は,朝廷から給与を支給され,政府の職員に任命されるのだから,命ぜられた局長たちにとっては,「無比の大栄誉」だったのである。(265p)

 国家的な制度として出発した郵政は,小泉構造改革により民営化されてしまいます。それでも,ちゃんと地方で成り立っているのは,全国一律の郵便運賃(切手)の制度など,前島密が西洋から学んで作った制度がしっかり根付いているからでしょう。このまま,どんな遠隔地にも,同一料金で葉書や手紙が届く時代が続いてほしいものです。たとえ,メールが普通になっても…。

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二人の『宇宙をつくるものアトム』

 1965年発行の本(私が買ったのは1985年版)なので,ネットには表紙がないようです。寺田寅彦の文章と『1471年,その一冊がすべてを変えた』に刺激されて,再読してみました。

 2000年も前の科学者であるルクレチウスが書いた文章と,ノーベル物理学賞をとったブラックの講演記録を起こした文章とが収められています。
 ルクレチウスは古代原子論者です。原子の存在について,現代と同じような考え方を持ち,それを市民に説明しようと書いた,詩の形をした論文です。編者の板倉聖宣氏は,ルクレチウスの書いた詩の形にこだわって,国分一太郎さんに訳を頼んだそうです。ですから,岩波文庫版のルクレチウス著・樋口勝彦訳『物の本質について』よりも,とても読みやすくなっています。ただし,抄録ですが。
 一方,ブラックの文章は,英国の王立学会が毎年開いていた科学に関するクリスマス講演で講演した内容が元となっているようです。ブラック親子はX線を使った結晶格子の研究でノーベル賞を取ったのですが,それらの内容だけではなく,広く,原子やその仕組みについて,とても分かりやすく書かれています(書いたのは父のヘンリー・ブラックの方)。
 両者とも,「宇宙をつくるものアトム」という邦題になっているのは,ブラックが本を書くときに,ルクレチウスの題名を使ったからだそうです。
 ルクレチウスについては,寺田寅彦も随筆で紹介していますが,ホンモノを読んだことのある人は,あまりいないと思います。
 なかなか素晴らしい文章ですよ。

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スティーヴン・グリーンブラット著『1417年,その一冊がすべてを変えた』

 ルクレチウスが『物の本質について』を書いたのは,紀元前のことらしい。そのルクレチウスは,さらに前の時代に生きたエピクロスから影響を受けたという。
 紀元前の時代から生きていた「原子論」の考え方,それが,キリスト教の時代に一度は葬り去られたのだ。
 本書のタイトルにある1417年というのは,まだまだキリスト教全盛期である。そんなときに,ある人文学者が修道院の図書室から『物の本質について』を発見し筆写する…。その人文学者の名前はポッジョ。この物語はポッジョを主人公として進められるが,時代が時代なだけになかなかスリリングな展開を見せるのだ。
 私は,ルクレチウスやエピクロスに興味があって本書を手に取ったが,そうじゃないひとたちにも,十分楽しめる内容になっている。
 中世のいろいろな哲学者の名前(教科書で習った人たち)も,キリスト教やルクレチウスと絡み合いながら出てくる。
 最終章にはトマス・ジェファーソンまで登場するという壮大なノンフィクションである。

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ゲーテ著『きつねのライネケ』

 むかーしむかしの石川県の子どもたちの「読書感想文」をまとめた本を読んでいたら,この本に関する感想文が巻頭を飾っていました。その6年生の感想文を読んでいると…原作を読みたくなりました。

 小学校高学年向け…と言う風に書かれていますが,もし,あなたが初めて読むのなら,大人になってから読んでも,価値のある本です。
 ライオンの王様に,きつねのライネケに意地悪されたと,いろいろな動物たちが出てきて,王様に訴えます。
 で,王様は,それが本当かどうか確認するために,ライネケを連れてこようとするのですが,派遣されたクマが返り討ちにあいます。次は…。
 というように,このきつねのライネケはとても,悪い奴という感じで描かれています。
 そして,物語の結末は…
 これを言ってしまうと,この物語を読む価値が半減しますので,ネタバレはしません。

 こういう話をあのゲーテがまとめたというのも驚きです。
 中世のヨーロッパには,きつねのライネケのような話が,語り継がれてきたようです。

 そんなきつねや動物たちの話を集めた本も,出ているようです。
 

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