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ファラデー著『ろうそくの科学』

 学校に来ている図書館司書の先生から「ファラデーの『ろうそくの科学』を持っていませんか?」と聞かれて,そういえば,30年ほど前に買ったなあと思いだし,再読してみた。これ,確かにおもしろい。今なら,実験を再現して科学講義ができそう。だれかやってくれんかな。

 今年のノーベル賞受賞者の吉野彰氏が,小学校の先生に勧められて読んで教えられた本として紹介されていたので,すぐに店頭から消えたという。この現象,毎度のことだけど…。
 わたしの本棚にあったのは,岩波文庫版。矢島祐利訳である。
 内容は,子ども向けクリスマスレクチャーの講演の様子を収めたもの。講演の場所は王認学会(ロイヤル・インスティテュート)で,当時は,いろいろな科学者が一般人向けに講演をしてきたらしい。
 ファラデーは,製本屋にはたらきながら,そこに書かれている文章を読んで科学に興味をもったという経緯がある。その後,曲折を経てデーヴィーの助手として働き始める。そして,中学校でも習う科学的な大発見をするのだ。
 本書は,「ろうそくの科学」と書かれているが,「そうそく」は単なる出発点である。6回の講演の中で,「ろうそく」が燃えると何がどうなるのか。空気とはなんなのか。燃えるとはなんなのか…など,いろいろな知識をユニークな実験を交えながら教えてくれる。本書にはところどころに分かりやすい実験器具の図も掲載されているので,ややこしい解説を読む助けになるだろう。
 子どもにはちょっと難解だと思われるが,吉野氏は本書を手に取って読んだんだと思う。他の会社からも数冊,『ろうそくの科学』が出ているけど,吉野氏の小学生の頃には出版されていなかっただろうし…。(本書の発行は1933年)
 ここまで感想を書いてみて,気づいたことがある。それは,今,手に入る岩波文庫版(上のカバーのもの)は訳者も変わっているし,ページ数も多くなっているようだ。これは読み比べてみるのもおもしろいかも。

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渋沢栄一著『論語と算盤』(現代語訳,ちくま新書)

 わたしの本棚では,カテゴリは「自伝・伝記」に入れたけれども,本書の内容はそれ以上のものである。
 日本資本主義の父と言われている渋沢栄一が,自分が生きる基準としてきた『論語』と,商売人としての生き方との関わりを解説した内容である。
 『論語』と〈商売〉とは,なかなか相容れない感じがする人も多いだろう。それは渋沢もよく分かっていたようだ。
 わたしも,商取引に関しては「商売というのは,道徳を無視して行うものではないか」「道徳的な人間は商売(金儲け)なんかに手を出すものではない。慎ましく生きるのだ」…みたいな感じがどうしても払拭できない。でも,それは,そう思ってしまう私が悪いわけではなく,実際,そんな商売人が多いから仕方がないことだ。今回の関電の話(2019年10月)を見るとなおさらそんな気分になる。
 渋沢は,儒教の生き方や武士道を取り上げながら,本当の商売は,その道にも見合ったものだという。自分のやってきた商売は決して自分の金儲けだけのためにやっているのではない。自分は常に天下国家を考えながら行動してきたのだと語る。実際,400以上の会社に関わってきた渋沢だが,そこで得た財産を慈善事業に使ってきたことも間違いない。三菱をつくった岩崎弥太郎と自分を比較しながら,なかなかおもしろいことも言っている。
 一万円札の肖像画になったということで,これから少しずつ有名になってくるだろう。この本だって,だからこそ出版されたとも言える。だって現代語だから読みやすいしね。
 渋沢栄一,もう少し幕末の頃も知りたいものだ。最初は幕府側にいたらしいので…。いよいよ自伝を読むかな。

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庄田望著『白蓮華』

 元石川県教組委員長の庄田望さんが書かれた『白蓮華』を読みました。とてもよかった。知らないことがいっぱい出ていました。しかも、飽きずに読めた。さすが庄田さんだなあ。サインもしてもらった。

 帯の言葉を引用する。

石川県で初めて献体を申し出たのは、盲目の女性だった。竹川りんはなぜわが身を医学に捧げる決意をしたのか。これは明治初頭、金沢とその周辺を舞台に、激動の時代を必死に生きた名もなき民の物語である。

 名もなき民…といっても、そこは小説なので登場人物にはちゃんと名前がある。竹川りんをはじめ、実在の人物も登場する。また、当時、金沢の被差別部落では、藤内医者という人たちがいて、貧しい百姓たちに対して医療を施していたようで、そんな人たちもとても大切な役として登場する。
 本書の「解題」を書いた山嶋氏は、この小説を書き上げるときに、著者に何度も相談を持ちかけられたそうだ。

著者は一言一句の正確さにこだわり、一行を書くために一ヶ月も文献を調べるという超凝り性の方である。「藤内」については地域に入り、聞き取り調査もしている。(解題より)

と書いているくらいだ。

 本書からは、当時の金沢の被差別部落の生活や貧しい百姓たちの様子が生き生きと伝わってくる。名もなき民が、しっかり生きている小説。当時の金沢の歴史・医学の勉強になるかな。

白蓮華身を解けとぞ言いて逝く医に世直しの思いを託し
(著者)

一般には販売されていない。石川学生協に問い合わせてね~。

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ロバート・キャンベル著『井上陽水英訳詞集』

 日本文学の研究者ロバート・キャンベルが、病気を患って入院していたとき、ベットの上で毎日一つずつ井上陽水の歌詞を英語に訳してみたーそれらを集めた本です。
 訳していたときには、「後々本にしよう」などと思っていたわけではなく、単に、「何かやりたかった」からやってみたのらしいですが……。
 本書には、歌詞をめぐる井上陽水との対談も取り上げられています。陽水がどのような思いでその歌詞を書いたのか……そんなことも聞き出したりして、なかなか面白い。ロバートが「こんな風な英訳にしてみたいのだが」というと「それはちょっとニュアンスが違う」「そんな風に考えたことがなかった」などと反応するのです。
 陽水の歌詞は、日本語で読んでもなかなか捉えどころがないことが多いので(だからこそ人気もあるといえますが)、それを英訳しようとすると、その歌詞を読んだ人の主観がどんどん入り込んできます。英語には主語があるのが当たり前ですが、英訳するときにその主語をIにするのかWEにするのか。はたまた、YOUにするのか三人称単数にするのか。時制は現在なのか過去なのか。いろんなことが気になってくるのです。
 50曲の歌詞とその英訳だけを読んでも面白いですが、本書の半分以上を占めているロバートの解説を読むことで、より日本語の歌詞と英訳を対比しながら読んでみたい思えると思います。実際私は、あっちこっちめくりながらスマホで単語を調べながら読んでみました。
 まだ、50曲すべては読んでいませんが…。
 ロバートの日本文学研究の片鱗があちこちにちりばめられてもいて、なかなか読み応えのある本です。
 解説部分の英語単語にカタカナが振ってあって、ちょっとびっくりしました。

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